充実した薬剤師ライフ

1:「人生のピークはいつ?」

文科系の学生達のヒマそうな様子を少しうらやみながら実験やレポートに明け暮れ、ようやく卒業と薬剤師免許が目の前に近づいてきた皆さんにとって今は最も充実した時かも知れません。未曾有の大不況にあっても薬剤師は引く手あまた…就職の時は皆さんをサポートしてきてくれた家族の方々にとっても、大変晴れがましい一瞬でありましょう。  しかし、卒業や国試合格が人生のピークではありません。そうだったらこれから転落の人生になるわけで、誰もそんなふうには思ってないはずです。今の薬剤師の地位は先輩方が築いてきてくださったものです。皆さん自身の価値は、薬剤師として本当に実力をつけた40-50代以降に何をするのかによってこそ図られるはずです。

問題は皆さんが活躍する「場」をどこに求めるかです。毎年、「就職希望先ランキング」が発表されますが、上位にランクされる企業の中には、その時がまさにピークの会社もあるのです。それどころか、産業そのものがなくなってしまうことがあります。昭和20年代の就職の花形は石炭産業でした。しかし、今や日本に炭鉱は一つも存在しません。当時エリートとして希望に燃えた学生達は、人生のピークを迎えるにあたり、働く場を失ってしまったのです。つい最近まで文科系の学生にとって花形だった金融業界も大きな変化に見舞われました。産業としては不可欠ですからその地位は不動ですが、企業レベルで見ると、リストラ(首切り、減棒、片道出向)にあったり、あるいは同僚や先輩の首切りをする立場に回された人は枚挙にいとまがありません。

幸い、薬剤師という職能や薬局という職場は「なくなる産業」ではありません。しかし企業レベルではこれから最も大きな変動が予想されるのがこの業界です。これから40年間の薬剤師ライフを充実させ、あなたのピークにやりがいのある仕事が出来るために、今後起こり得ることをよく考えておいてください。

2:調剤薬局の今後

Ⅰ:医療分野の歴史的背景

医薬分業が日本でスタートしたのは1980年代のことになります。世界のいわゆる「先進国」で医薬分業をしていなかったのは日本の他に韓国、台湾くらいのもので、「医薬分業によって医療の質を高める」ことは大いに意義のあることでしたが、一方、この頃から懸念された高齢化による医療費の高騰を「無駄な薬を減らす」ことによって抑制しようという長期的な戦略の始まりであったということは記憶に留めておく必要があります。薬価差益の大きい当時、医師は自分で診断すればいくらでも薬を出すことができ、収入を上げることができました。医療保険の本人負担比率も少なかったことから(老人無料/本人1割)、患者自身も医師に薬をおねだりすることすらあって、医療費に占める医薬品の比率は上がり続けていたのです。

処方箋を発行する医師に手数料を提供し、一方で薬価引き下げを行うことによって薬の利益を減らす⇒医師は薬を手放すというのが厚生省の取った方策でした。医師は医薬品の在庫負担から解放され、備蓄スペースや薬を出す人間(看護婦や事務員)の人件費を節約することもできました。問題は受け入れ側の薬局が未整備で、調剤のできる薬剤師もいないということでしたが、これは調剤の技術料を当初高く設定し、薬剤師にモティベーションを与えることによって解決しました。OTCの販売低迷によって苦しんでいた開局薬剤師にとっては渡りに船だったのです。

Ⅱ:医療費抑制への方向転換

国民一人当たりの医療費分業が始まって約30年、いよいよ高齢化を目前にして流れは変わりました。日本全国での分業率も50%を超え、分業率の高い地域では患者さんも自分の便利な薬局を選択するようになってきました。2002年度、国民一人当たりの医療費は24万円ですが、このまま何もしなければ2025年には一人当たり100万円、厚生労働省の最近発表した資料(何らかの手を打つのでしょう)でも55万円という途方もない数字に膨れ上がろうとしています。 日本の平均家庭の収入は470万円くらいですから、医療費を払ったら半分は消えてしまいます。これでは国も家計も成り立ちません。医療費には大きなメスが入らざるを得ないのです。これは調剤薬局においては、処方箋1枚あたりの売上・粗利益額の減少を意味します。

このような状況を受けて日本薬剤師会が民間の調査会社2社に委託して薬局の可能性を調査しました。現在日本全国に4万6000店の保険薬局がありますが、数年後に5万1000店にまで増加した後、5年程度で2万~2万5000店にまで減少するというのです。その根拠は、日本経済がそれ以上の薬局を支えられない(払う金がない)ということですから、政治力等でもう少しゆっくりしたペースになることはあり得ますが、これから40年間薬剤師として生きていく皆さんにとっては逃れられない、確実に起こることです。

Ⅲ:生き残る調剤薬局<要因>

1枚あたりの収入が減少した時生き残れる薬局は、幾つかのパターンに集約されます。何らかの理由によって処方箋枚数を増加させられるか、コストを引き下げられるか、あるいはその両方ができた薬局です。以下、一般的な要因を列挙します。

① 処方箋枚数を増加させる要因
  1. 隣接で競合する調剤薬局が閉鎖することによって、自店の枚数が増加する
  2. 営業時間(休日・夜間)や駐車場などの便利性をもっている
  3. ドラッグストアとして来店動機が他にも存在する
  4. 自店の隣接に医療機関を誘致する(医療村)
  5. 備蓄がしっかりしている
  6. 立地が良い
② コスト引き下げの要因
  1. ヒマな時間帯を作らない
  2. チェーン化によって機器、薬剤の仕入コストを引き下げる
  3. アシスタントの育成を図る(法改正を要する?)
  4. 調剤ロボットの導入⇒一人当たりの処理枚数増加(法改正を要する)
  5. OTC,介護などの商品販売に注力する(人件費率低下)

*薬剤師にしかできないこととそうでないものの分離がカギになります

Ⅳ:生き残る調剤薬局<形態>

サンキュードラッグ調剤店 売上高前年同期の比較マンツーマン調剤薬局(開業医隣接)、大型病院門前、ドラッグストア併設の3つのパターンで分析します。2008年3月期の売上高を前年同期と比較しました。

マンツーマン調剤  105.5%
大型病院門前    105.0%
ドラッグストア併設  124.8%

分業率が70%と極めて高く患者さんが分業に慣れている上に、高齢化率も20年後の日本を先取りしている北九州市では既に将来を予感させる動きが出ているのです。この中で大型病院の門前については長期トレンドと異なる動きがありますので注意が必要です。今後大型病院には外来抑制がかかりますので、処方箋は長期的に減少します。それにも関わらず門前で増えたのは、分業開始当初FAXで地域の薬局にばら撒かれた処方箋が、「薬剤がない」「技術的に対応できない」などの理由で、この時期門前に回帰する現象が見られたからです。長期的には、まさに「門前群れをなす」調剤薬局は良くて半数~それ以下になると思われます。

マンツーマン薬局は、数の上では最大の減少セクターです。隣接の開業医以外の処方箋が来るとはまず思えない小規模店が数多く存在するからです。もちろん、複数の医療機関に囲まれるとか、単独でも非常に患者数が多いとか、何らかの手段で処方箋確保に成功した薬局が残ることは当然です。問題は自店がどちらに入るのか、そのために何をするのかです。

前項で述べた生き残るための要因をドラッグストアは数多く抱えています。立地が良く、集客の手段を他にも持ち、駐車場や営業時間も便利、企業として備蓄する資金力がある、事務などヘルプに回せる人材が店内に存在する等々です。ドラッグストアとして「安売り」に奔走する企業もありますが、調剤に本気で取り組むドラッグストアこそ10-20年後の「調剤薬局の主流」になりそうです。

Ⅴ:ドラッグストアの今後

ドラッグストアの成長要因は別の紙面に譲りますが、ともあれ大きく伸びて社会的にも認知されるようになったドラッグストアは既に過当競争に入りつつあります。企業レベルではどんどん淘汰が進み、生き残れる企業数は減少の一途です。

ドラッグストアが販売の中心にすえているのはOTCや化粧品などのヘルス&ビューティーケア(HBC)ですが、HBCにたいする年間一世帯の家計支出は10万円強です。つまり、自店の周りに1万世帯あって競合がなければ年商10億円になるというわけです。ところが現実には競合が渦巻いていて、こうはなりません。ドラッグストア同士の競合のみならず、コンビニやスーパー、ディスカウントストア、ホームセンター、それに通販までもがこの市場を奪い合っています。だから過当競争がさらに過熱するのです。

ところで、調剤の市場規模は同様に計算すると、年間一世帯あたり9万円(分業率70%)にも上ります。しかも薬局しか取り扱いのできないマーケットなのです。したがって、これを取り込んだドラッグストアは非常に有利だということになります。ましてや、従来型の調剤薬局が遠からず半減するとしたら・・・その時に行き場を失った処方箋がどこへ行くのか、火を見るより明らかです。

「調剤薬局も持っているドラッグストア企業」ではなく、「調剤併設のドラッグストア」:しかも既に一定枚数を確保しているか、処方箋確保のための具体的方策がある企業こそがドラッグストアとして生き残り、かつ近未来の調剤薬局を担うことになりそうです。

3:「患者さんの立場から」

患者さんの立場から日本が直面する「世界一の高齢社会」は、65歳以上の構成比が実に25%を超えるという人類史上に例のないものです。このような社会において必要とされる薬局の姿はどのようなものでしょう?

Ⅰ:ハード面

ハードの中で最も大きなウエイトを持つのが店舗です。高齢者に使いやすいという点では、距離の問題が最重要となります。歩いて5分毎に信頼できる薬局があれば、日常生活の安心感は高くなります。

この点でも、調剤併設型ドラッグストアが威力を発揮します。「近い」ことは「商圏人口が少ない」ことを意味しますが、少ない人口で成り立つためには、一つの店で幅広い商品構成を持つことが必要です。HBCだけのドラッグストアよりも、調剤だけの薬局よりも、併設店は半分の人口で成り立つのです。また、幅広い商品構成であるが故に長時間営業も可能です。いつでも開いてる便利な健康ショップとしての地位はこれから急激に高まるでしょう。ドラッグストアとしての成立が難しい(広い土地のない)場所や処方箋が集中する場所では従来型の薬局や調剤薬局が補完することになります。

Ⅱ:ソフト面

高齢者は当然、複数受診の傾向が高まります。医薬品の使用量も、25歳と70歳の比較では7倍の開きがあります。いつどこにかかっても安心(飲み合わせ=配合禁忌のチェックなど)な体制の確立は急務です。

今後医療費の自己負担が減ることはありません。また、健康保険料は増額の一途をたどるでしょう。経済的に自分の生活を守るためには「病気にならない」ことへの一人一人の取り組みが大切になります。ビタミン・サプリメントの活用(セルフ・メディケーション)をはじめ、病気にならないためのお手伝いは薬局の大きな仕事となります。「どこも悪くない」高齢者はほとんどいませんが、たとえどこか悪くても元気に過ごせるよう、お手伝いするのも薬局の大きな使命です。

アメリカで長年にわたって薬剤師は「最も信頼される職業」でしたが、その理由は6年制での高度かつ臨床に根ざした知識というよりは、むしろ身近にいていつでも気楽に、かつ無料で相談に乗ってくれることによるのです。

4:「求められる薬剤師像」

求められる薬剤師像現在進行中の医療制度改革によって、多額の資金と時間をかけて育成してきた国の医療資源である薬局・薬剤師は、最早リスクの少ないOTCを販売するために存在するのではなく、より医療に近い立場に立って、予防やプライマリーケアを担うことを期待されるようになりました。OTCの販売を否定しているわけではなく、その一環として、入り口部分に位置づけられたと考えるべきでしょう。

予防領域では、2008年4月からの特定保健指導における薬剤師の立場を考えねば なりません。そもそもどれくらいの人が健診を受けてくださるかという問題もありますが、手間隙かかる割に報酬は少なく、希少な薬剤師資源を投入するのはためらわれるところです。しかし、健診で何らかの問題が発見され、治療には及ばないという方々の身近な相談相手に誰がなるのかと考えると、これは極めて大きな問題です。

薬剤師はアメリカで20年にわたって「信頼される職業No1」の地位にありましたが、それは決して6年制で高度な知識を身につけたからではなく、薬剤師がドラッグストアの店頭でいつも気軽にアクセスすることが出来、にこやかに、そして親切に相談に乗ってくれる「身近な」存在であったということを思い出さねばなりません。

「身近」という課題はまた、「店にいる」とか「にこやか」ということだけでも解決できません。「会う機会が多い」というのも大変重要な要素です。「リフィル(慢性疾患の処方箋を最長2年間、繰り返し使用できる制度」という制度はその点、薬剤師を身近な存在にするのに好適な仕組です。長期にわたって医師に会うことなく服薬を続ける患者にとって、唯一最大の相談相手が薬剤師となるからです。

以前、NACDS(全米チェーンドラッグストア協会)と全米薬剤師会が協力して「調剤こそは最もコストパフォーマンスの高い医療の形態である」という大キャンペーンを行ったことがあります。「我々に高い点数を配分しろ」ではなく「我々は医療費を下げてみせる」と主張し、世論を味方につけたのです。リフィルは、まさにその主張を実現するものでした。そのために、病理や臨床体験、コミュニケーション技術が重要な課題となり、6年制カリキュラムは、そこを存分に取り入れました。結果、ドラッグストア業界は成長し、薬剤師は多額の給料を得るようになりました。

私はリフィルの効用をお話したいのではなく、「身近」ということを実現することで何が起こるのか、またそのために何をしなければならないかを考えて欲しいのです。保健指導は、短期的には収益をもたらさないでしょう。しかし、間違いなく薬剤師を身近な相談相手にしてくれます。そのための仕組をどう作るのか、今取り組むべき大きな課題を与えてくれます。

5:「就職について」

皆さんが薬剤師として充実した生活を送れるための基本事項…お判りいただけたでしょうか?これだけのことを今すぐできるようにはなりません。また、企業の方も時代の流れに合わせてしか準備できないことが多々あります。しかし、べクトルがどちらを向いているのか、何らかの対策が実行されているのか、薬剤師教育において何が重要視されているのか…そうしたことがチェックポイントになるはずです。

皆さんが薬剤師として花開く時、最高の舞台として活躍の場が与えられることを、そして皆さんの判断に誤りのないことをお祈りします。

薬剤師中途採用